あしなが育英会と米国ヴァッサー大学共催のコラボレーション音楽会「世界がわが家」(At Home in the World)の東京公演は、2014年3月20日、18時半から新宿区立文化センター大ホールで開催され、約1600人の感動の涙を誘い大歓声と満場の拍手を浴びて大盛況で終了しました。
アンコール。3国の子どもたちはまさに一つになった。中央は、ヴァッサー大学合唱部クリスティン・ハウレット監督
開演を知らせる序曲は、東日本大震災遺児らの和太鼓「意会」(佐藤三昭作曲)とウガンダの「王族のドラム」の合奏。夏祭りを連想させるような軽快なリズムが会場を包みました。女優の音無美紀子さんのナレーション「あしながおじさん物語」の紹介で開演。ヴァッサー大学聖歌隊(コーラス部)による「ミスター女の子嫌い」(ミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ」=ジョン・ケアード/ポール・ゴードン作)、「確かなること この輝く夜に」(ジェームズ・エイジーの詩より、モーテン・ローリドセン作曲)、「幸せの秘密」(ダディ・ロング・レッグズより)と、清らかでロマンチックな歌声にうっとり。「いま、あしながさんの愛が最も必要な子どもたちのいる国があります。それは、アフリカ!」と音無さんのアナウンスと同時に舞台は真昼のように明るくなり、ウガンダキッズが民族衣装で登場、速いドラムのリズムに乗って激しく腰をゆする野性味あふれた愉快なダンス「チガンダ」(ブガンダ伝統舞踏)で、会場は沸きに沸きます。
続く「シンプルでいる才能」(シェーカー伝統聖歌)と「レクイエム」(イライザ・ギルキソン作曲)は、ウガンダキッズとヴァッサー大生の合唱。ウガンダキッズは全く知らなかった欧米音楽を、ウガンダに1か月滞在したヴァッサー大学音楽学部・合唱部監督のクリスティン・ハウレット准教授に教わり、今日のために猛練習してきたのです。みごとな歌声、その健気さに涙がこみ上げます。
貴重な太鼓の由来を説明した伊藤健人さん
続いての和太鼓チームによる「HASEKURA」(佐藤三昭作詞作曲)の勇壮な演奏で舞台のムードが一変します。この曲は仙台藩士・支倉常長がモデル。支倉は伊達政宗より命を受け「慶長遺欧使節団」を率い、愛船サン・ファン・バウティスタ号で石巻・月の浦を出向しヨーロッパに渡り、貿易交渉しました。未来を自分の手で切り開こうとワークハードした支倉の「志し」「考動力(考え行動する)」。演目は、震災で奇しくも石巻市は最大の犠牲者を出し、生きながらえた演者を含む地域の未来を切り開くため、希望を子どもたちに受け継ぐために我々を奮い立たせます。今の日本の若者も、悲しいときこそ世界へ出て国際的に活躍すべきと伝えているようです。そこにヴァッサー大生の高らかな歌声がみごとに練り合わされ、熱い血潮がこみ上げてきます。そして、津波遺児・伊藤健人さん(大2)の「和太鼓によって悲嘆を超えて前向きになった」という震災からのこと、「この和太鼓は津波で破壊された家の瓦礫で作られたのです」という説明に聴き入り、出演者と満場の観客は震災で犠牲になった多くの方々のご冥福を祈り黙祷を捧げました。
日下マリアさんを支える音無さん
次の和太鼓「ねがい」(佐藤三昭作曲)では、津波遺児・日下マリアさん(高3)の作文朗読が織り込まれました。地震で崩れる家屋を目の当たりにした恐怖、家族の安否を確認できない不安、母親の死を知ったときの深い悲しみ。しかし今、夢を持って生きていくという誓いを涙をこらえながら一生懸命に朗読する日下さんの肩を、音無さんが励ましながらやさしく抱きます。だれもみな溢れる涙を抑えることができませんでした。ここで再び、悲しみを吹き飛ばすようにウガンダキッズのダンス「アマグンジュ」(ブガンダ伝統舞踏)。歓声と拍手が鳴り止みませんでした。
いよいよ、音楽会は終盤。音無さんは、小説「あしながおじさん」から始まるあしなが育英会の軌跡を振り返り、国内外約9万人の遺児の進学をなしえたのは「あしながさんのお陰です。ありがとう、あしながさん!」と声高らかに舞台から感謝を伝えました。そしてウガンダキッズ、ヴァッサー大生、和太鼓チーム合同で「目を閉じたとき」(ジム・パプリス作詞作曲)、「花は咲く」(岩井俊二作詞/管野よう子作曲)が歌われ、最後の「チャリティー」(ダディ・ロング・レッグズより)では、客席から玉井義臣あしなが育英会会長とジョン・フェローヴァッサー大学学長補佐がウガンダキッズらに手をひかれて登壇し感謝の挨拶をのべました。玉井会長のスピーチは下記のとおりです。
フィナーレで謝辞述べる玉井会長。左端はジョン・フェロー氏、(一人おいて)ジョン・ケアード氏
2011年12月、私はヴァッサー大学のキャサリン・ヒル学長に「作家ジーン・ウェブスターの『あしながおじさん』刊行百年記念に、ヴァッサー大の若者とウガンダのエイズ遺児を同じ舞台にのせて何か創りませんか」と提案したところ、間髪入れず「OK!」という返事をいただきました。歴史的瞬間でした。そして、世界的演出家ジョン・ケアード氏に「アフリカの極貧の子と世界で最も家系的にも教養的にも恵まれた若者が一緒に舞台を創れないか」と口説きました。初日の交渉では手ごたえを感じませんでしたが、翌日、ジョンの目が鋭い光を発していました。非常な熱意が感じられました。ここから具体的に急進展して行きます。
さて、ジュディ・アボットのような孤児が今世界に2億人いると言われています。私たちは、半世紀かけて「あしながさん」を増やし、日本の遺児を励まし進学を支援してきました。そして2000年から約10年間は、世界的な災厄によって遺児となった子どもたちを日本でのサマーキャンプや心のケアのつどいに招待し続けました。その子どもたちが大学生の年齢になったので日本の大学への留学制度を創ったところ、今日までに、40人の日本留学が実現しました。現在は、この地球上で最も貧しい地域とされている(世界銀行調べ)サブサハラ49か国の遺児を毎年一人ずつ世界の大学へ留学させ、母国の発展に貢献する人材を育成する「あしながアフリカ遺児教育支援百年構想」実現のため、支援者を募り組織づくりを急いでいます。今年初めて、アフリカの遺児3人が米国の大学トップ100に合格し、「百年構想」の突破口を切り開きました。私たちの「あしなが運動」の究極の目的は、“やさしさ”を集めて、世界の貧困を削減することにほかなりません。本日、このコラボ音楽会はその大きなキックオフとなりました。ありがとうございました。
アンコールではジョン・ケアードさんはじめメインスタッフも加わり、「幸せの秘密」を大合唱。アフリカ、米国、欧州、日本がひとつになった、奇跡のコラボ公演の実現を目の当りにして感動した観客の皆様は熱い拍手を送り続け、しばらく席をたとうとしませんでした。仙台公演に引き続き、東京公演はさらにグレードアップされ余韻を残し大成功で閉幕しました。
舞台を鑑賞する野田佳彦前首相(中)と藤村修あしなが育英会副会長(右端)
終演直後、会場内で感想を伺いました。野田佳彦前首相は「舞台を観て、鳥肌がたつほど感動いたしました。子どもたちへのメッセージというよりも、今夜の舞台は、我々大人へのメッセージと受け止めました。日本でも本当に教育の機会が奪われている子どもたちがいますが、世界では、特にアフリカでは沢山いる。その子どもたちが人生を切り開いていくために教育は本当に大切だと思います。その事の大切さを今日は改めて体感させて頂きました。あしなが育英会のあゆみは、藤村修あしなが育英会副会長(前内閣官房長官)から伺っており、私自身も“遺児と母親の全国大会”に出席したこともありますが、今日ほど体感したことはなかった。日本、アメリカ、ウガンダ(アフリカ)による合作でとても感動的に学ぶことができました。このような機会を頂き感謝しています」と述べました。
童話作家の東菜奈さんからは「ウガンダの子ども達、本当に、本当に、本当に素晴らしかったです。最高でした。命の輝きを感じました。あの笑顔からほとばしるエネルギーは、まだまだ輝き足りないとでも言いたげで、とても頼もしいですね。あしながスタッフの方々の努力の賜物と、感激しながら拝見いたしました」とのメールが寄せられました。
また、あしなが奨学生OBの渡邉文隆さんは「今回のコラボ音楽会は、100年前、小説あしながおじさんに始まった、“遺児のための教育とケア”という大きな物語を見せてくれました。心を打ったのは、舞台の美しさだけではありません。それは、この物語の真ん中にいる子どもたち一人ひとりが一生懸命に生きる姿であり、50年以上にわたって遺児のために働いてきた玉井義臣会長という人のひたむきさであり、そして何よりも、観客席にいる自分たち自身が、その物語の一員である、ということでした。映画やドラマでつくられた物語とは全く違いました。自分の人生と地続きで繋がっている、大きな物語への感動でした。僕は、中学3年生で遺児になりました。今回の音楽会は、自分の人生が、『遺児のための教育』という物語を紡いできてくれた何十万人もの人々と共にあったのだ、ということを教えてくれました」と語りました。
舞台後半、最大の盛り上がりを見せた
玉井会長は「ヴァッサー大との共催を企画し足掛け4年、天才的ミュージカル演出家のジョン・ケアード氏のお陰で、三つの団体のコーラスと太鼓とキッズたちの踊りがうまく一体化し『世界がわが家』の実現へのストーリーをよくまとめきられたと思う。聴衆観衆は感動の嵐で『世界の人に見てほしい。感動を分かち合いたい』と口々に語っていた。次は15年6月、16年3月、ワシントンDC、ニューヨーク、東京。そしてローマ、パリ、ロンドンでと、世界ツアーについてヴァッサー大と緊急に協議している。作品はより完成度を高めて公演される。実現の可能性大である。共催して下さったヴァッサー大学とすべての関係者に、そして全国のあしながさんに心をこめてありがとうございましたと申しあげます」と語っています。
(あしなが育英会編集室、画像撮影:八木沼卓氏)